【書評】『「ニセ医学」に騙されないために』/NATROM【もう騙されない】

2024/08/04

筋トレ 書評

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【書評】『「ニセ医学」に騙されないために』/NATROM【標準医療否定もビジネスだよ。騙されないで。】



 こんにちは。
 理学療法士のわい爺です。
 私は2006年に理学療法士免許を取得しました。
 本記事をお読みの皆様に、私のこれまでの体験から得られた知見を共有いたします。

 私のような者が書いた記事をお読みの皆様は、健康情報に関心があると確信しています。
 本もテレビもインターネットも健康情報は玉石混交。
 「うそ、おおげさ、まぎらわしい」情報が飛び交っています。

 例えば私の分野であれば、
  • ウォーキングは危険
  • 1日10,000歩歩くと健康寿命が縮まる
  • 骨盤のゆがみ
  • 足の筋力がたった1回の運動でアップする
  • 100回スクワットより○○が効く

 など、動画サイトを少し見ただけで、怪しい情報のオンパレード。
 こういった情報を発信する人たちは出典を示さない
 主に独自の理論や、自身の経験をもとにして語っています。
 「真実」を教えますという文言、目にしたことありますよね。

 ですが、こういった独自の理論や、経験をもとにした情報の根拠のレベルは、最下位ランクです。


根拠の強さ






・メタアナリシス
・システマティックレビュー
・無作為化比較試験
・コホート研究
・症例対照研究
・症例集積
・症例報告
論説、専門家の意見や考え

 根拠の強さを表に示しました。
 難しい言葉は深く考えなくて大丈夫です。

 専門家の意見や考えは、根拠の強さは高くないということを知っておいてください。
 
 もちろん、理論や経験は貴重な情報ですので、それそのものを否定したいわけではありません。
 
 問題となるのは、根拠のある有用な情報を全面的に否定し、独自理論をさも真実かのように話し、自分のビジネスに誘導し、相手の健康を害する場合です。

 では、そのようなニセの情報を見抜くためはどうしたらいいのか?
 今回ご紹介する書籍にそのヒントが書かれています。

NATROMさんの『「ニセ医学」に騙されないために』を読了しました。
 現在は新装版になっており、NATROMさん名義ではなく、名取宏(なとりひろむ)さん名義になっていますので、そちらのリンクを貼っておきます。


 本書は、インチキ医学やニセ科学から身を守ることを目的に、その手口の問題点を根拠をもって解説している書籍です。
 どうしてそのような理論なのか出典もしっかり示されています。

この本を手に取った理由

  1. 自分自身が「根拠」を大切にして発信している
  2. SNS上で相談をいただくようになって、根拠のない情報に困っている方がいることを知った
  3. 助言をするうえで、自分自身が人を困らせる立場にならないために知識をつけようと思い本書を手に取りました

 私は転倒予防について、根拠を示して解説する活動を行っています。
 現在最もオススメされている転倒予防運動は、バランストレーニング、筋力トレーニング、ウォーキングを組み合わせて行うこと。

 にもかかわらず、「ウォーキングは危険」とか「筋トレこれ1回」とか怪しい情報を目にすると黙っていられません。
 本記事の後半では、これらの怪しい情報と戦います。

本書の構成

  1. 現代医療編(がんやワクチンなど)
  2. 代替医療編(ホメオパシーなど)
  3. 健康法編(健康食品やグッズなど)

 で構成されています。

ニセ医学とは?

「医学のふりをしているが、医学的な根拠のない、インチキ医学のこと」
 


私に響いた内容

標準医療否定もビジネス

Q:病院で標準的に行われている医療は「儲け主義のビジネス」と思い込まされた人が頼る先はどこ?

A:
  • 代替医療
  • 健康食品や器具
  • 「真実」を教えてくれる本や講演会

 これら全てが有料です。
 医療費よりも高くつくこともあります。
 つまりは、標準医療を否定することもビジネスなのです。

 病院や製薬会社にも、ビジネスの側面が確かにあります。
 職員に給与を支払うことができなければ、病院や製薬会社が潰れてしまいます。
 そうなると、病気に苦しむ患者さんが困ってしまいます。

 標準的な医療もビジネス。
 医療を否定することもビジネス。
 どちらもビジネスであるので、医療がビジネスであるという批判自体がナンセンスなのです。

万能を謳った時点でその治療法はインチキ

Q:なぜ万能を謳うのか?
A:顧客が増えるから

 万能療法についての臨床試験はありません。
 万能役と言われるものに効果があることは確認されていません。
 よって万能を謳った時点で、その治療法はインチキと断定してよいと筆者は述べています。

 がん、糖尿病、アトピー、腰痛、神経痛など対象者を増やすことで、その治療法を受けたいと思う顧客が増えることが期待できます。
 これが万能を謳う理由です。

 医療にも限界はあります。
 治らない病気もあるでしょう。
 患者さんが弱っているところに、「治ります」という商品があれば買ってしまうかもしれません。
 悪いのは患者さんではなく、インチキをかたる業者なのです。

 アレにも効く、コレにも効くという治療法や商品には近づかないようにお気を付けください。

症例報告や論文がない理由

Q:そんなすばらしい治療法や商品なのに、なぜ症例報告をしたり、論文を書いたりして世間に発表しないの?
A:素人はだませても、専門家による検証には耐えられないから

 症例報告や論文は専門家によるチェックが入ります。
 私が論文を書いた時は、2回、3回とチェックを受けました。
 質問に返答し、ようやく掲載されることができました。

 ニセ医学はこの手続きに耐えることができません。
 そこで、チェックの入らない一般書を書いて書店で本を売ります。

 症例報告や論文が無いのは「製薬会社が学会や医学雑誌に圧力をかけているから」という言い訳をすることもあるようです。

 学会や医学雑誌に圧力をかけることができる製薬会社が、出版社に圧力をかけないのはなぜでしょうか?
 それは圧力をかけているということ自体が嘘だからでしょう。

 症例報告や論文を書かない理由をごまかしているだけです。

序章で述べた怪しい健康情報について考えてみる

 本書を読んで、ニセ医学と相対した時の考え方を学習しました。
 そこで、先ほどの怪しい健康情報について検討してみたいと思います。

ウォーキングは危険

 ウォーキングに限らず、全ての運動にはメリットとデメリットがあります
 メリットがデメリットを上回る場合、その運動には価値があります。

 ウォーキングについて、質の高い研究と言えば、中之条研究 (※1) が上げられます。
 群馬県中之条町の65歳以上、5,000人を10年以上調査しています。

 この研究は、1日の歩数と病気予防の関係性を述べています。
 この調査は根拠の強さを示した表にある、コホート研究に分類されます。
 独自の理論や経験より、根拠のレベルは高く、信頼のおける研究です。

 もし、ウォーキングが危険であると言うならば、このような質の高い研究発表をくつがえせばよいのです。
 ウォーキングの習慣があるせいで、病気になりやすいなどのデメリットがあることを証明してほしいところです。

 論文を発表するということは、専門家のチェックを受けることになります。
 独自の理論を展開して素人はだませても、専門家はだませないから、論文で発表していないのではないかという視点はとても大切です。

 もちろんウォーキングにもデメリットはあります。
  • 炎天下では熱中症のリスクがある

    →涼しい時間帯を選んでください

  • ふらつく方は転倒のリスクがある

    →杖やシルバーカー、靴を見直す

    →バランストレーニングと筋力トレーニングを併用する

  • 関節痛や筋肉痛のリスクがある

    →医師の適切な治療を受ける

    →無理はしない

  • 歩くだけでは筋力はつかない

    →他の運動との組み合わせが重要

 ウォーキングから得られるメリットと、デメリットを総合的に判断し、ご自身にとってウォーキングに価値があるかどうか考えていきましょう。


1日10,000歩歩くと健康寿命が縮まる

 健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のこと。
 これも先ほどと同じで、10,000歩歩く人と、そうでない人で、要介護になるリスクに違いがあるのかどうかを論文で発表してほしいと思っています。

 中之条研究によると、10,000歩歩く人は様々な病気に加え、メタボリックシンドロームも予防できたということです。

 10,000歩歩ける人が、もしこのウソに騙されてウォーキングをやめてしまった場合、歩く能力を損なってしまいます。
 明らかにデメリットが上回るでしょう。
 こんなトンデモ理論にはお気を付けくださいね。

骨盤のゆがみ

 骨盤のゆがみは「体幹」と並んでとても便利な言葉です。
 何が起こっているのかわからないけど、なんだかすごいことを言っているような気にさせてくれます。

 時々論争になるので目にしたことのある方もいらっしゃると思います。
 骨盤そのものがゆがむことはありません。
 骨盤まわりの筋肉の弱さや硬さが姿勢に影響を与えることがあります。

 緑区医師会のコラム (※2) に詳しく書かれていますので、一度ご覧になることをオススメいたします。
 ▼外部リンク

足の筋力がたった1回の運動でアップする

 以下の表は、運動の反復回数とその効果、最大の負荷に対する割合について述べた表です。

1RMに対する割合と反復回数
運動の反復回数コメント%1RM
1回で限界
筋肥大効果は低いが神経系が改善するので筋力は上がる
100%
2回で限界95%
3回で限界93%
4回で限界90%
5回で限界87%
6回で限界85%
8回で限界
筋肥大、筋力向上効果が一番高い
80%
9回で限界77%
10回で限界75%
12回で限界70%
15回で限界67%
18回で限界筋肥大の最低ライン65%
20回で限界60%
30回で限界50%

 1RMは、「1 Repetition Maximum」の略で、1回しか繰り返すことのできない負荷のこと。
 %1RMは、1回しか繰り返すことのできない負荷に対して何%の負荷なのかということ。

 確かに1回繰り返すだけで限界になるような運動でも筋力はつきますが、それは1回しか繰り返すことのできない重い負荷で運動をするということです。
 スクワットで例えると、1回しかできないスクワットというのは、かなり重いバーベルを背負って行わなければなりません。
 それだけキツイ運動をするということです。

 つまり、ケガをするリスクが高まります。
 1回しかできない運動を指導することは通常ありません
 10回~15回繰り返した方が安全です。

 1回の運動だけで筋力をつけようと思うと、かなりのリスクを負うため、デメリットの方が大きくなります。
 1回だけの運動は、楽なのではなく、危険なのです。

 反対に、何回も繰り返すことのできる軽い負荷の運動を1回だけ行っても望ましい効果は期待できません。

 1回だけの運動はデメリットの方が多く、通常は採用されることのない考え方です。

100回スクワットより○○が効く

 上の表に100回の記載はないのですが、1つの運動を100回も繰り返すことができるということは、かなり負荷が軽いということです。
 スクワットが100回もできる時点で、かなり筋力がついています。
 スクワットから得られるメリットは少ないでしょう。

 そうであるならば、スクワットより負荷のかかる運動を指導するのが通常です。
 私は、スクワットの次の段階として、ランジという運動を指導することが多いです。

 もしくは、スクワットをもっとゆっくり、もっと深く行ってみるよう指導します。

 スクワット100回と比べる時点でナンセンスです。

 といった具合に、私にも怪しい情報と戦う力がついてきました。

本書をお読みいただくと

  • ニセ医学の手口がわかる
  • ニセ医学に相対したときの考え方が身につく
  • 世の中には自分が知らないだけで、たくさんのインチキ理論があることがわかる

 転倒予防には運動することが重要です。
 その運動に関して、根拠のある情報と根拠のない情報が入り乱れています。

 ぜひ、根拠のある情報を得る力を身につけるためにも、本書を参考とされることをオススメいたします。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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