ビタミンDと転倒予防の関係性を調べた内容のまとめ
こんにちは。
理学療法士の「わい爺」と申します。
今回は、ビタミンDと転倒予防の関係について調べましたので、そのまとめ記事です。
一般向け
65+世代(高齢者・シニア世代)にとって、ビタミンDと転倒予防には関係があると言われています。
結論からお伝えしますが、
point
- ビタミンDと転倒予防は、関係があると言われているだけ。
- ビタミンDを摂取したら転倒が予防できますよという話ではない。
- 今のところ、ビタミンDには運動以上に転倒予防の効果を期待することはできない。
- 転倒予防を目的として、ビタミンDを摂取してくださいと強くオススメすることはない。
もちろん、血液中のビタミンDが少ない方はビタミンDの摂取を検討されると思いますが、それは医師の判断によります。
年齢とともに血液中のビタミンDは低下すると言われています。
心配であれば、かかりつけなどの医師に相談すると良いでしょう。
ビタミンDは日光に当たることで体内で作られます。
- 1日15~25分は陽に当たる。
- 冬はもう少し長め。
- 手のひらに当てるだけでもビタミンDは作られる。
- 日焼け止めを使い過ぎない。
ビタミンDを体内で作るために、上記のような対策がオススメされています。
× ビタミンDを摂取する ➡ 転倒予防になる
という方向の話には強い根拠はありませんが、
○ 血液中のビタミンDが少ない ➡ 転ぶ割合が多い
という方向の話ならあります。
先ほどもお伝えしましたが、年齢とともにビタミンDが少なくなります。
血液中のビタミンDが少ないと、歩くスピードや立ち上がるスピードが遅くなるそうです。
ビタミンDの役割
正常な骨格と歯の発育促進神経伝達や筋肉の収縮などを正常に行う働き
出典:公益財団法人長寿科学振興財団:ビタミンDの働きと1日の摂取量より引用。
- ビタミンDが少なくなる
- 「神経伝達や筋肉の収縮などを正常に行う働き」が弱くなる
- 転倒してしまう
という一連の流れが推測できるので、転倒してしまう原因の一つとしてビタミンDの影響もあるだろうということです。
実際に、Bischoff-Ferrariさんが、60歳から90歳の4,100人を調べて、
point
血液中のビタミンDが少ないと身体の動きが衰えている
ことを発表しました。
出典:Bischoff-Ferrari HA, et al: Higher 25-hydroxyvitamin D concentrations are associated with better lower-extremity function in both active and inactive persons aged>or=60y. Am J Clin Nutr, 80: 752-758, 2004.
この研究では、性別、年齢、体型、人種、病気の数や種類などの影響を取り除いて計算しています。ビタミンDが少なければ身体の動きが衰えているといってもよい論文です。
ビタミンDが気になる方は医師に相談してくださいね。
加えて、ビタミンDが豊富な食材について長寿科学振興財団のホームページに記載がありますので、リンクを貼っておきます。
▼外部リンク
公益財団法人長寿科学振興財団:ビタミンDの働きと1日の摂取量
- ビタミンDに過剰な期待はしない
- ビタミンDが豊富な食材も取り入れる
- バランスよく食べる
- 運動は欠かさない
ビタミンDとうまく付き合って、転倒を予防しましょうね!
▼参考になりましたらクリックお願いいたします
マニアックな情報
ここから先はちょっと難しい情報なので、理解をふかめたい方はぜひお読みください。
ビタミンDの摂取に転倒予防効果があるとはいえない
出典を参考に筆者が作成
出典:Gillespie LD, et al : Interventions for preventing falls in elderly people. Cochrane Database Syst Rev. 2009; 15: CD000340.を参考に作成。
これは、13個の研究をまとめており、合計26,747人が参加しています。
結果の見方ですが一番右端の、「95%信頼区間」が「1」をまたいでいるため、統計的に有意ではありません。
ビタミンDの摂取に転倒予防効果があるとはいえないという結果になっています。
ビタミンDを含む栄養評価について質の高い研究がほとんどない
Nutritional assessment including vitamin DExpert recommendation. Assess nutritional status including vitamin D intake as part of a multifactorial falls risk assessment, followed by supplementation where appropriate.GRADE: E.
出典:Manuel Montero-Odasso et al: World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022 Sep; 51(9) より引用。
翻訳:
ビタミンDを含む栄養評価
専門家による推奨。たくさんの転倒リスクを評価する一環としてビタミンD摂取量を含む栄養状態を評価し、適切な場合はサプリメントを摂取してください。
グレード : E
グレード:Eは、根拠の高い質の高い研究がほとんどなく、専門家による推奨レベルにとどまっているものです。
表は筆者が作成
ビタミンDの摂取は図のとおり、根拠の強さは「低レベル」になっているというわけです。
たしかに、ビタミンDを摂取するだけで転倒予防できますよってなったら、とても楽ですよね。運動もしなくなるし、部屋の片づけもしなくてよくなる。
現実そんなことはありません。転倒予防はいろいろな要素がからみあう複雑な問題なのです。
▼参考記事
「○○食べるだけ」や、「たった一つの方法」などといったキャッチーなフレーズが、動画界隈では流行っていますが、人間相手でそんなに簡単なものはありません。
もちろん、これから研究が進めば、今とは違った結果になる可能性は残されています。
根拠の強さが低いから悪いというわけではありません。
質の良い論文がまだないというだけで、今後もないとは言い切れません。
ともにビタミンDの行く末を見守りましょう。
見守りつつ、運動は続けていきましょうね。
運動には転倒予防の効果がみとめられています。
▼参考記事
運動とビタミンDの組み合わせ
- 運動
- タンパク質やビタミンDを多く含んだ飲み物
を組み合わせることで、筋肉量や歩行速度が改善した。
出典:山田実:高齢者のテーラーメード型転倒予防運動,疫学研究 2012; 14(2): 125-134.
転倒予防の話題はどこいった?
となってしまいましたが、筋肉量や歩行速度が改善することで、間接的に転倒予防に効果があるかもしれません。
ただしこの論文で提供している飲み物は、ビタミンDも入っていますが、タンパク質も豊富とのことです。タンパク質も豊富なら筋肉量も増えますし、ビタミンDの影響が薄まってしまうのではないかという懸念があります。
日本の論文も、世界の論文も、ビタミンDが直接的に転倒予防に効果があるとはいえなさそうです。
ビタミンD関連の論文を読むときに必要な知識
血液中のビタミンD濃度 = 血中 25(OH)D濃度
血中25(OH)D濃度は、ビタミンDの貯蔵量を反映していると考えられています。
皮膚で合成されたビタミンD3、および食物から摂取されたビタミンD2とD3は血流により肝臓に輸送され25位が水酸化を受け 25(OH)Dとなります。
生理的な条件下では、大部分のビタミンDが「25(OH)D」に代謝されます。
25(OH)Dは、ビタミンD結合蛋白(DBP)と結合し、血中を長期間かつ安定に循環するので、血中 25(OH)D濃度がビタミンD貯蔵量を反映していると考えられています。
よって、ビタミンD関連の論文では、ひんぱんに25(OH)Dという言葉が出てきます。
これがビタミンD濃度なんだなと理解いただけると苦労せず読み進めることができると思います。
25(OH)D濃度が43.4 nmol/L 未満で身体運動機能が衰えていた
上でご紹介した、Bischoff-Ferrariさんの論文です。
統計手法は、線形回帰分析を用いています。
調整因子は、性別、年齢、BMI、人種または民族、貧困所得比率、カルシウム摂取量、医学的併存疾患の数、自己申告による関節炎、歩行器具の使用、評価月、活動レベル(非活動的または活動的)、活動的な高齢者の屋外代謝当量です。
調整因子とは、簡単に言うと
point
「その数値がどうであれ(高かろうが低かろうが)関係ない」
という解釈です。
今回の結果は
- 男性だろうが女性だろうが
- 年齢が高かろうが低かろうが
- 体型が細かろうが太かろうが
- 人種がどうであれ
- 所得が多かろうが低かろうが
- カルシウムの摂取量が多かろうが少なかろうが
- 病気の数が多かろうが少なかろうが
- 関節炎があろうがなかろうが
- 歩行補助具を使っていようが使っていまいが
- 何月に測定しようが(冬は日照時間が短いから)
- 活動的だろうが不活発だろうが
ビタミンDが低い人は運動能力(歩行速度と立ち上がり速度)が衰えている。
という解釈ができます。
このように、論文を読むときはどんな方法で結果を導いたのか理解することで、結果に惑わされずに済みます。
例えば、ビタミンDが少ないと歩きが遅いよという論文があったとします。
このときに年齢が考慮されていなければ、歩きが遅いのは年齢のせいでは?という疑問が解決されないままになってしまいます。
論文は結果だけでなく、その結果に至るまでに、著者が何を考慮してどのような方法を使ったのかというところまで見ていきましょう。
ところで、今回の論文では25(OH)D濃度の単位はナノモルパーリットル(nmol/L)です。
1 nmol/L = 0.4 ng/ml
今回の論文の基準である43.4 nmol/L未満 = 17.36 ng/ml
表は筆者が作成
この表にあてはめると、先ほどの論文は、ビタミンD欠乏状態であれば、身体能力が衰えていると報告していると解釈できます。
このように、単位の扱い方も論文によって違うことがあるので、理解しやすいように変換して解釈することをオススメします。
まとめ
- ビタミンDは転倒予防と関係があると言われている。
- ビタミンDの摂取による転倒予防効果に強い根拠はない。
- 論文を読むときは、用語や単位、結果の解釈に気をつけて読む。
参考・引用
論文
①
Bischoff-Ferrari HA, et al: Higher 25-hydroxyvitamin D concentrations are associated with better lower-extremity function in both active and inactive persons aged>or=60y. Am J Clin Nutr, 80: 752-758, 2004.
②
Gillespie LD, et al : Interventions for preventing falls in elderly people. Cochrane Database Syst Rev. 2009; 15: CD000340.より引用。
③
Manuel Montero-Odasso et al: World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022 Sep; 51(9)
④
山田実:高齢者のテーラーメード型転倒予防運動,疫学研究 2012; 14(2): 125-134.
サイト
①
公益財団法人長寿科学振興財団:ビタミンDの働きと1日の摂取量
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